スポーツライター梅田香子とMMカンパニー&CHICAGO DEFENDER JAPAN

梅田香子 contribute to MM JOURNAL

ぼこぼこ場外乱闘編

スポーツライター梅田香子の日常を日本語でメモ代わりに綴ったものです。

車いすの総理大臣と外務大臣

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 当時の義足は鉄で、10キロぐらいありました。
 ミゾーリ号で降伏文書にサインするとき、車いすのまま引き上げる作業が大変で、秘書の加瀬英明は「写真を撮るな」と叫びました。(自分でそう本に書いています)
 戦後は東京裁判で懲役7年の判決。恩赦で刑は短くなります。


昭和20年9月2日 戦艦ミズーリ降伏文書調印式


 戦後、3回衆議院選挙でも選ばれました。
 重光さんは車椅子の外務大臣でした。国会には付き添い人もつきました。

 何度か総理大臣の手前までいきます。が、野党の足並みがそろわず、吉田茂の説得に応じた後、鳩山一郎の日本民主党に加わります。
 鳩山総理大臣のとき外務大臣でしたから、大臣2人が車いすだったわけです。
 国会では介添え人もつきました。鳩山さんは脳こうそくの後遺症で、半身麻痺です。
 ただ当時は車いすの写真はあまり撮らず、上半身だけとか、杖で立つ写真がほとんどです。

 重光は長生きされたので本もたくさん書いています。
 どれも面白いです。「昭和の動乱」はメモ書きっぽい。二二六事件のとき昭和天皇を幽閉して、弟殿下(秩父宮)を即位させるプランをちらっと軍人から聞いていたそうです。
 鈴木貫太郎らも同じ不安を抱えていました。宮城(皇居)の改修工事のときなど、気をつけなければ天皇陛下がそこに幽閉されてしまう恐れがある、と。

 

 おすすめは中公文庫の「外交回想録」で、たしか「文藝春秋」に寄稿した「隻脚記」を再録しています。これはもうはらはらどきどき、いろいろな面でおすすめです。

 まず重光は第一次上海事変を停戦させるため、軍司令官の白川義則大将を必死で説得します。
 白川は愛媛出身、前陸軍大臣です。秋山好古が目をかけ、臨終にもたちあいます。
 昭和天皇は涙ながらに、

「決して長追いしてはならない。3月3日の国際連盟総会までに何とか停戦してほしい。私はこれまでいくたびか裏切られた。お前なら守ってくれるであろうと思っている。」 

 と白川に伝えます。
 ところが、いざ戦場にでてしまうと、人は変わってしまうものです。

 参謀本部の指令だといけいけどんどん、白川はなかなか決断できません。


 重光の度重なる説得で白川は3月3日、ようやく停戦の命令をだしました。

 これで白川と重光は陸軍の怒りをかいます。

 1932年(昭和7年)4月29日上海の虹口公園(現魯迅公園)で天長節の式典。

 この公園は冬はスケート場にもなり、近くに魯迅や朝日新聞の尾崎秀実ら、日本人が多く住んでいました。
 小雨の中、海軍の軍楽隊によって、君が代が演奏されます。
 檀上で2回目の君が代が終わろうとしたとき、金属製のお弁当箱みたいなものが式壇に投げつけられます。 
 海軍の野村吉三郎大将(ルーズベルトとは旧知で、後に来栖三郎と日米交渉)が、
「爆弾!二発目がくるぞ!」
 と叫んだものの、重光は「君が代がまだ終わっていないから」と動きません。
 爆発してからは最大級の痛みで、立ち上がれません。ステッキで立とうとしたら折れてしまいます。

 これはテロの瞬間の映像のようです。


上海 天長節祝賀会場爆弾事件


 病院にかつぎこまれてから、重光は100以上の破片が主に右足と右腕に食い込んでいることがわかります。1度の手術では終わらず、痛みで1週間眠れません。
 右足を切断することになりました。
 外務省をやめて満鉄の社長になっていた松岡洋右が毎日、病院まで見舞いにきてくれました。
 野村はこのとき片目を失います。

 白川はいったんは小康を取り戻したのに、5月23日に容態が急変、26日には亡くなります。このへんは謎が多いようです。
 爆弾テロの主犯は銃殺刑。不思議なことに、終身刑の廉応沢は後に日本軍に加わります。

 226事件の生き残り、黒崎貞明の部隊に加わるのです。

 南満抗日連合軍司令官兼第一司令官の揚成宇と第2軍司令官の金日成の討伐を目標におきます。

 それについては昔、こちらで書いたことがあります。

 重光に話を戻します。
 とてもポジティブな思考をする方です。足を切断手術したときは、
「これで大隈重信(元総理大臣、右足が義足)と同じだ」
 巣鴨刑務所に入るときは、

「明治の偉人は皆、ぶちこまれているものだ」
 なんて考えます。

 

 もしかすると、そのうちNHKの「いだてん」でもでてくるのかもしれません。

 1938年、パリで吉田茂、来栖三郎、杉村陽太郎と会談。1日も早く日中戦争を終わらせよう、と誓います。ただ杉村大使は癌で手術を繰り返し、すっかりやせ細っていました。

 杉村陽太郎は加藤雅也が演じています。ばいなう。