スポーツライター梅田香子とMMカンパニー&CHICAGO DEFENDER JAPAN

梅田香子 contribute to MM JOURNAL

ぼこぼこ場外乱闘編

スポーツライター梅田香子の日常を日本語でメモ代わりに綴ったものです。

「東電OL殺人事件」と渋谷小史

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  この弁当のキャラがわかった方はきっと昭和の生まれですね。すみません。この事件にあう写真、私はストックありません。


  この事件の感想はすでに語りつくされ、知らない世代も多いと思います。
  慶応大卒の東電のエリートOLが自ら1日4人のノルマを課し、渋谷の街角でいわゆる売春の日々。
  母親は「うちの子はまじめだから無断外泊したことがありません。売春しているので事件に巻き込まれたのかもしれない」と警察に通報し、渋谷の円山町で遺体となって発見されます。
  手帳には顧客リストや売り上げが克明に書き込まれ、東電にも固定客がいたようですし、流しの客もいたようです。
  ネパール人の冤罪は証明されたものの、真犯人はわからず、迷宮入り。この母親の言動も不思議でなりませんが、一切取材は拒否したまま。
  葬式の日は道路という道路に東電関係者がたち、取材関係者の立ち入りをはばみました。
  
  1997年といえば私は日本にほとんどいません。

  子育てに追われ、野茂英雄やマイケル・ジョーダンの取材で、毎日が寝不足で、あの頃お会いした方には失礼があったかも。というのも、名刺をだして挨拶しようとしたら、「梅田さん、僕、シカゴであっています」と言われる回数が多いからです。「シカゴの家でお好み焼をごちそうしてくれたじゃないですか」と言われたのも2度や3度じゃありません。心当たりのある方、その節は大変失礼しました。

  たまたま今回この本を手にしたのは、ぱらぱら読んだら昭和史の一面を含んでいたからです。昭和史おたくの私には特筆しておきたい箇所がいくつかありました。


  なので、今から書くことは本や事件の感想というより、自分へのメモです。

  •  渋谷の円山町はもともと岐阜の奥飛騨の御母衣ダムにルーツをもつ人が多かった。
  • 「電力は国家なり」の大号令で、荘川村、白川村あわせて約350戸を強制的に立ち退き。その立ち退き料で渋谷の円山町に連れ込み旅館をつくった。
  •  このダムは戦前は「満州の政商」といわれた鮎川義介の片腕として働き、電源開発の初代総裁となった高崎通之助が中心となった。
  •  円山町の花街に通ったのは東急グループの五島慶太(子孫はフィギュアスケート一家)、大平正芳元総理大臣。大平総理の三男は慶応、東電と被害者の同期で、後に大正製薬の副社長。あまり事件とは関係なさそうですが。
  •  大岡昇平は渋谷の出身。類まれな精緻な地理感覚の持ち主。代表作「レイテ戦記」のなかで効果的に使った地理的遠近法の手法がまざまざと思い出させてくれた。

 筆者はこの大岡昇平の手法をとりいれ、坂口安吾の「堕落論」を何度か引用しています。さすが構成も文章も秀悦で、ぞくぞくしてきます。

 カトマンズや奥飛騨などを旅して、この事件の関係者と会い、裁判を傍聴しつづけます。(ノンフィクションライターは時給に計算すると、やっちゃいられませんw しかし、裁判官が時折舟を漕ぐ、ってこの国の司法は大丈夫なのかしら)

 大岡昇平の「レイテ戦記」は特別な作品なので、また別な機会に。

 この「東電エリートOL殺人事件」も「レイテ戦記」と同じ手法で、「土地」にひそんだ「物語」を掘り起こしています。


 自分が立つべく「土地」を見失った人たちは縛られ、あるいは解放され、かげろうのように浮遊しています。

 円山町でホテトルを経営していた人のほとんどが脱サラ組だったとのことです。

 まさに坂口安吾の「堕落論」そのものです。

 被害者の父親は東大出身で、東電勤務。彼女が大学2年のとき癌で早世されたそうです。私にも覚えがあるのですが、まだまだ「母子家庭」というだけで、就職にはかなり不利だった時代でもあります。
 永福町の家は80坪ほどの土地で、バブル期は1坪500万円したそうです。(なら4億円?80坪って狭すぎません?)
 事件の後、家を取り壊すことを条件にして売り出し、すぐに一億6千万円で売却。借地でしたが、少なくとも半分は母親と妹に入ったことになります。
 

 東京郊外で育った私にはあまり渋谷になじみがありません。中央線のほうが便利なので、原宿よりも新宿でした。
 渋谷は中学のとき友だちとNHKオーケストラの定期公演に通ったぐらいです。

 たまに山本直純が指揮してね。

 事件現場は渋谷より井の頭線の神泉駅に近かったらしい。でも、一度もおりたことはありません。

 何度もしつこく書いていますが、226は私の趣味。その横の赤レンガの前で226事件の青年将校たちが銃殺になり、戦後はワシントンハイツになってジャニー喜多川さんは赤レンガでキャッチボールしたそうです。
 その後は東京五輪の選手村になりました。

 最後にどうでもいいことを1点だけメモがわりに。同級生の話だと、被害者の女性はアイススケートのクラブにも入っていたそうです。フィギュアかスピードかはわかりません。場所を考えると神宮?

 被害者のご冥福をお祈りします。個人的な感想だと、犯人は外国人ではなく、893のショバ争いに巻き込まれたような気がしています。後ろ盾もなく、5年の間毎日タチンボーして許されるほど、安全な国ではありません。

 顔や頭を強く殴打された後が残っていたそうで、悲しい事件でした。

 ばいなう。

東電OL殺人事件 (新潮文庫)

レイテ戦記 上中下巻セット (中公文庫)

堕落論 (集英社文庫)

続堕落論