美輪明宏さんの著作で、正と負の法則が世の中にあるという話を読んだことがあります。なんというタイトルだったかな。
あの言葉はぐさっと胸に突き刺さりました。同時に納得もいきました。
私はスポーツライターの仕事が大好きなのに、いつも足かせみたいなものを感じていました。
「女なのに」からはじまって、「結婚しているのに」「子供がいるのに」「障害のある子どもがいるのに、どうして?」と。なんかもう質問攻めにする人とたまに会うのです。
男の人みたいに気持ちよく、なんの心配もなく、仕事に没頭できたら・・・と感じない日々はありません。
でも、そこは正と負の法則。そういう負い目があったから、私のような凡才はかえって仕事の運がまわってきたのかも。
というのも、わかりやすい例が私の母。専業主婦で生きてきた母はスポーツライター業には最初から反対でした。賞もらっても、本がでても、「がんばったわね」と褒められたことは一度もありません。
私の場合は前の結婚が19年間、経済的にはシングルマザーだったので、母は早い時期に離婚をすすめましたが、その一方でいつも助けてくれました。このことは感謝しています。一生の恩。母の存在がなかったら、スポーツライター業はつづけられませんでした。
私も妹たちも勉強はぱっとせず、学歴は高くありません。が、家事能力は高いほうだと思います。
なので、妹たち2人もそれぞれ2人の子供をもち、都内に持ち家もあり、ときどきは家族で海外旅行も楽しんでいます。
父より母の影響が強いです。母は私たち3人の結婚のときドレスを縫ってくれました。
子供が生まれてすぐ、メジャーリーグのストライキが終わって途方にくれたとき、
「仕方ないから仕事しなさい。飛行機代をだしてくれたら、いつでも付き合うわよ!」
という言葉がどれだけ心強かったことか。そして、実際どれだけ助けてもらったことか。保守的な父(故人)も私のためならとアメリカに母を送り出してくれたのです。それが母にはうれしかったようで、私が出張から戻ると英語もできないのに、あちこちでかけていました。
ただ今の結婚だと夫が私の収入に頼るところがありません。
なので、母の「大反対病」が復活。私がちょっとスポーツ新聞にコメントしただけでも、こんな手紙を送ってくるのです。
傷つきますよ。がんばるのは自分勝手で、家族は迷惑だと。「がんばれ」なんて親から言われたことはありません。
なので、昔から強く心に決めていました。私は自分の子供たちは、ほめて育てよう。やりたいことがあったら、「がんばれ」といつも言うようにしました。
英語ではこういうとき便利な言葉があります。
I am proud of you!
ぜひ皆さんもこの言葉を使ってください。
失敗談があります。日本でスケートの試合に出るようになったころ、「上手ですね」と言われると、つい謙遜で「うちの子なんて全然だめですよ」と言ってしまいました。
長女は「ママはひどいことを言う!」と帰りの車で大泣きだした。
アメリカ育ちなので日本語は片言しか理解できていません。なので、「謙遜」を説明すると、どんどん泥沼化。ましてや謙遜なんて文化も習慣もないのです。あとはもうひたすら謝りました。
でも、何年かたってからも、「ママは本当にひどい」とこのことは根にもっていました。バイリンガルじゃなくても、「謙遜」は幼い子供を深く傷つけるようです。
学習塾でもフィギュアスケートでも、よくできる子はたいてい親がほめ上手です。厳しく叱ってもあとのフォローが必ずあります。正と負のバランスがとてもうまくとれているのです。